くたびれはてこ氏がアイヌ問題で嘆願書を書いて炎上した件について

くたびれはてこ(id:kutabirehateko)氏のエントリー「アイヌ民族尊重の呼びかけに関する嘆願書 株式会社SNKプレイモアならびにナコルル声優 生駒治美さん、中原麻衣さんへ(メタブ)が批判を集めていた。先週のエントリー「ナコルルが強すぎてムカつく人たちによるアイヌヘイトスピーチよりもさらに反発の声が多く、もはや炎上と言っても差し支えないと思う。
ブックマークのコメントは批判がほとんどで、人気コメントでは無能とまで言われてしまっている。

tsukimine tsukimine snkには要求することは理解できるが、声優にそれを要求するのはさすがに御門違いだと思うけど。

kotetsu306 kotetsu306 この嘆願を受け入れなかったらまた炎上させるんだろうなぁ…と思うと、ゲーム会社が新作にアイヌキャラを登場させるのを思い止まるかもね。アイヌのタブー化に一歩前進。

take-it take-it 全力で明後日の方向へ走っていく無能な働き者感凄い。

前のエントリーに書いたが、はてこ氏が批判された理由は、着火エントリーで相手の見極めに失敗したのと、文脈と関係なくヘイトスピーチだとする主張が原理主義的でもあることが原因だと考えている。「ナコルルを倒す」の意味で使われた「アイヌは殺す」はヘイトスピーチだと断定するのは、議論としては雑なところがある。
また文脈を無視して表現の規制を求める主張は、言葉狩りだと批判されても仕方のないところがある。「アイヌは殺す」という発言は「前後の文脈がどうであろうと」「紛れもないヘイトスピーチ」だとすると、国や地域はどうなのかとか、ハゲやチビのような属性はどうなのかという反発が出てしまうのも当然だろう。

ちなみに「アイヌは殺す」と発言したTwitterユーザーのアカウントは凍結されていたがすでに復活している。発端となったツイートは消えているが、Twitter運営からヘイトスピーカーではないと判断されたのだろう。
はてこ氏は最初のエントリーでは「紛れもないヘイトスピーチ」と強い口調だったのに、最新エントリーでは「アイヌに対する暴言として注意喚起が必要」という表現にしている。最初からそのくらい配慮して書いていれば、もう少し肯定的な反応が得られていたかもしれない。
かつて『ちびくろサンボ』が絶版になったり、黒人を模したカルピスのマークが消える騒動があったが、強すぎる言葉で批判を続けると、アイヌという存在が黒人と同じようにタブー化してしまう恐れがある。

アイヌ問題を主張し続けることの逆効果

はてこ氏は嘆願書を提出すると表明したが、Twitterユーザーは活動を再開しているし、ヘイトスピーチ対策法に触れるような発言でもなかった。おそらく嘆願書を出しても、はてこ氏が望んでいるような対応は得られないだろう。
しかし、可能性は低いがもし返答があった場合、それでこの問題は改善されるのだろうか。私はそうなった場合、逆にこの問題が泥沼化するのではないかと考えている。
メーカーが嘆願書に返答をすると、格闘ゲーマーの発言に問題があることを公式が認めたことになるし、ナコルルアイヌ差別を誘発したことを認めることになりかねない。おそらくそれはネットニュースなどでも紹介されることになるだろう。
そもそも、ブロガーが思想信条を元に嘆願書を送るというのは、非常に政治的な行動である。Togetterのコメント欄ではこの件に関する議論があるが(元のまとめは通報により非公開になり、新しく作られたまとめで議論が続いている)、被害者意識を訴える側と差別意識を否定する側という、よくある政治的な構図になってしまっている。
もし公式が返答をしたら騒ぎが収まるどころか、逆にこの議論が再燃しかねない。アイヌ差別はなかったと主張している人もいるので、議論が噛みあうことは難しい。意見の合わないユーザーにどう接するかは難しい問題だが、それはあくまでネット上の問題であって、ゲームソフトメーカーが対応すべき範疇の問題ではないだろう。

(追記:参考になったコメント)

crapman crapman BtoCビジネスやってる人ならわかると思うけど、"公開"嘆願書の対応って割とコストかかるんだよな。そういうのが届いてしまうと、ある属性や言葉は次からは使わないでおこうってタブーになる。それがいいとは思えんな

そうした想定をすると、やはり制作サイドに対応を求めることは間違っているのではないだろうか。ストーリーやキャラクターの設定を変える必要がないのであれば、あくまでユーザーの側で対応すべき問題だろう。
もし本気でアイヌ差別の解消に取り組みたいと考えているとしたら、もっと他の方法もある。例えば過去にゲーム関係の仕事をしていたのであれば、その人脈を活かして影響力のある人を紹介してもらうこともできるし、プロゲーマーやゲーム好きの有名人に働きかけるという方法もある。もちろん専門家やアイヌ団体にメール等で相談する方法もある。
こうした運動というのは、社会からどれだけ支持されるかが肝になる。ベビーカー問題やマタニティマークのように、政治的に正しくても受け入れられていない問題も多い。その点から見ると、政治的正しさを貫き通して炎上してしまったのは失敗といえるだろう。
批判コメントの中には、今回のエントリーによって逆に偏見を増やしかねないという意見もある。きっかけとなったアイヌ問題から離れて、ブロガーの炎上案件になってしまったのはとても残念なことだ。


(追記)
はてこ氏のエントリー内で、引用されている条例が一行削除されているという指摘があった。もし意図的なものであれば何らかの説明が求められるだろう。

ですがそのような状況で誰かの発言をヘイトスピーチと認定し、また認定した上で叩くのであれば、相当の慎重さが求められるべきと私は思います。

くたびれはてこさんは、こちらの記事でも当該発言をヘイトスピーチと認定していますが、記事の中で 「アイヌ殺す」はヘイトスピーチか  という見出しの下、それぞれの立場のツイートを引用し中立的な立場をとっているものの、結局あの発言がヘイトスピーチであることを論証していません。まさか「傷ついた人がいるのだから問答無用で差別だ」というわけではないのでしょう。

「アイヌ民族尊重の呼びかけに関する請願書」の内容について - 文章または写真、またはその両方

(追記2)
はてこ氏が引用部分を修正し、「まとめて返信」というエントリーで引用の件について触れた。
しかし「削除ではなく一部引用」だと開き直るような説明をしたため、ブックマークでは反発するコメントが人気を集めている。
「落ち着け」など冷ややかな反応も多くなっていて、炎上のよくあるパターンに陥ってしまったように見える。