女性専用車両の議論が終わらない理由

ネットで女性専用車両は差別か否かという議論が続いている。発端となったのは一部の男性が女性専用車両に乗り込む活動をして、それがニュースで報じられたことのようだ。
私は知らなかったが、女性専用車両については裁判で争われていて、すでに差別ではないという判決が出ている。

本件は、女性専用車両に反対する任意団体の構成員とともに、事前に予告したうえで女性専用車両に4人で乗車した男性が、鉄道会社に対して、女性専用車両は本来誰でも自由に乗車できるものであるにもかかわらず、健常な成人男性の乗車を事実上禁止しており、その行為は憲法に違反し不法行為に該当するなどと主張して、損害賠償・謝罪広告女性専用車両の表示をしないこと等を求めた事例である。

 裁判所は、鉄道会社が女性専用車両を設定した目的、時間帯などから、鉄道会社が女性専用車両を設置したのは正当であり、その旨表示することも正当である等と判断し、男性の請求をすべて棄却した。

女性専用車両の違法性を否定した事例(消費者問題の判例集)_国民生活センター

乗車運動をしている一部の男性たちも当然それを知っているだろうし、彼らに政治や司法に訴えろと言ったところであまり意味はないのだろう。
そもそも女性専用車両なのに男性が乗車してもよいルールが原因になっているので、こうした混乱はこれからも続くのではないかと思う。
この問題を巡るいざこざというのは、差別というより優先席問題と似ているところがある。優先席はルールではなくマナーで成り立っているので、マナー違反があると成立しなくなってしまう。
それとよく似た問題として車椅子用の駐車スペースがある。日本では車椅子マークのところに車を駐めたとしても、罰金はないし違法性もない。だからといってマナー違反が常態化するとルールを厳しくするしかない。実際にアメリカでは州によっては、健常者が車椅子スペースを使うと罰金を取られるようだ。

では男性が女性専用車両への乗車運動を続けたとして、アメリカのように罰金を取る方向に社会が進むのかというと、個人的にそこまでは行かないだろうと感じる。その前に女性専用車両に警備員を配置するといった方策が取られるのではないだろうか。
電車のホームドアが設置されると、なぜ今までホームドアがなかったのだろうと不思議に感じることがあるが、女性にとって女性専用車両はホームドアのような存在なのだろう。一部の男性が望んでいるように、女性専用車両が廃止されるということは、まずありえないと思う。

混雑がすべての元凶

なぜネット上の議論が続いているのかというと、おそらく男性側から見た不公平感の問題がある。女性専用車両は路線によっても異なるものの、他の車両よりも空いている場合が多い。
もし将来的に車両をパーティションで区切られるようになれば、満員電車というのは男女別になる可能性もあると考えることがある。痴漢犯罪が完全になくなることはないのだから、犯罪抑止という点では男女別のほうが望ましい。

不公平感だけでなく犯罪者扱いされる男性への抑圧もある。痴漢冤罪が問題になっている状況で、女性専用車両があるなら男性専用車両も作るべきだという意見も仕方がないところがある。
慣れというのは恐ろしいものだが、満員電車の混雑というのはある種の異常事態でもある。そうした状況は平穏な人の冷静さを奪ってしまうところがあって、おそらく痴漢犯罪や冤罪事件もそうした状況が生み出す側面があるのだろう。

また女性専用車両は女性を守るだけで、ほかの弱者が除外されている問題もある。例えば、通勤電車にはベビーカーや車椅子だと乗車しづらい、低身長や児童にとって吊革が高すぎる、高齢者にとって過酷な環境であるなどの問題が残っている。女性専用ではなく女性・児童・高齢者優先車両とするほうが政治的には正しいようにも感じられる。

問題を先送りする日本文化

この問題について、個人的には日本人の性質の問題も大きいと感じている。
まず男性が乗車してもよいルールにした鉄道事業者がおかしいと思う。男性による乗車運動は、利用者だけでなく現場の駅員も苦慮しているはずだ。上が決めたルールが明確ではないせいで現場が疲弊させられるという、いかにも日本的なやり方に見える。
また本来はフェミニストが「女性専用」という用語を受け入れるのはおかしいと思う。ダサピンク問題ではピンクの押し付けを批判したのに、朝の通勤時間が終わってからも一日中ド派手なピンク色で「女性専用」と書かれたシールが貼られているのはなぜ受け入れられるのだろうか。

この状況を生んだのは、かつて我慢することを美徳としながら、通勤ラッシュを耐えて一人前というような人生観を多くの日本人が抱いていたからだろう。その結果、21世紀になっても奴隷列車のような状況の満員電車が残ってしまった。
男女を巡る議論では欧米との比較がよく持ち出されるが、時差通勤を認めない企業に対して懲罰的な課税をするとか、女性専用車両に乗り込む男性を強制排除するとか、そうした欧米流の過激なやり方をしなければ、たぶん変わることはないだろう。

少子化問題について、背景も認識せずに「なぜ結婚しないのか?」というのは笑い話になっているが、女性専用車両の問題についても、「なぜ痴漢がなくならないのか?」と論ずるのはおかしなところがある。満員電車の異常な混雑を解消するか、男女別の車両にしないと痴漢がなくなることはないだろう。その背景が変わらないなら、おそらく何十年経ってもこの議論は同じように続いていくのではないだろうか。