くたびれはてこ氏がアイヌ問題を取り上げて批判された理由について

くたびれはてこ(id:kutabirehateko)氏の書いたエントリー『ナコルルが強すぎてムカつく人たちによるアイヌヘイトスピーチが炎上気味に批判を集めていた。
格闘ゲームをプレイしているユーザーが「アイヌは殺す」とTwitterで発言したことを批判した内容だが、逆にはてこ氏が批判される事態になってしまった。
私が最初にエントリーを読んだときの率直な感想は、「ずいぶんと些細な話だな」というものだったが、その後、増田(匿名ダイアリー)やブログ等で批判が相次いだ。

言ってることは間違いじゃないと思う。 でもね。この文章読んだあとの読後感を正直に書くと 「はてこさんやkotneiさんのやり方がまずすぎるし、これで人が話を素直に聞いて動くと思ってるならただのバカだろ」です。

「言ってることはわかるがお前のことが気に入らない」を軽視しすぎたらあかんのちゃうかな - あとのまつり

対戦格闘ゲームアイヌ人設定の美少女キャラ「ナコルル」がかなり性能よくて強いと。 ナコルル使いに押されるプレイヤーが「アイヌは殺す」とtwitter上で発言したと。

少なくとも発言者に実在アイヌ民族への悪意が無かったことがわかってる以上 ここは「言葉遣いが悪かった」「アイヌの人が聞いたらギョッとした」というところに落ち着けたと思うのだが なんでいきなりヘイトスピーチという話でかかっていくのだろう。

アイヌヘイトスピーチを探して、何故ゲームプレイヤーのキャラ叩きをつるし上げる?

これは、はてこ氏を応援する増田の投稿。

元のゲーマーも、この増田も、要は無自覚なボンボン。普通に世間で苦労してる社会人に怒られて逆ギレしてる、それだけの話。 この場合「ボンボン」とは、ただ「日本人」として生まれ島国の中で特段「民族」を意識することなく育ったことを指している。「自民族中心」どころかそもそも圧倒的に無自覚に日々を安穏と暮らしてるこの子らは、自分という存在や立場の暴力性やら何やらに対しても全く無自覚だ。

増田のわかってないところ

簡単にまとめると、以下の派閥がそれぞれ言い争っている感じになる。

表現規制派‥‥「民族+殺す」は使うべきではない。
表現規制反対派‥‥文脈を無視して言葉狩りをするのはやりすぎ。
SNSマナー派‥‥検索して喧嘩腰に叩くのはマウンティングになる。

個人的には、はてこ氏のブロガーとしての経験不足、とりわけ着火する相手の見極めに失敗したことが批判の原因だと感じた。はてなには着火の上手いブロガーがたくさん揃っているが、こうした着火エントリーで重要なのは、どれだけ相手が悪質なのかを示すための証拠の積み重ねにある。
例えば、何度警告しても発言をやめなかったとか、問題を指摘しても罵詈雑言で返してきたとか、過去にも同様の行為を繰り返しているなど、スムーズな着火のためにはそうした材料を用意周到に準備することが重要になる。
そうした材料が揃っているわけではなく、Twitterユーザーの失言しか燃料がなかったので、ガソリンを持ってかけつけた読者のフラストレーションが溜まってしまった。その結果、ブロガーに視線が向けられることになってしまった。

原理主義的な考え方に対する反発

また「アイヌは殺す」を文脈とは関係なくヘイトスピーチだとみなすのは原理主義的なところがある。「殺す」は絶対悪だと決めつけてしまうと、それ以上対話の余地がない。
アイヌ問題は周知されているとは言えないし、おそらく北海道を除けば教育も十分にはされていない。かといって知らないと開き直るのは傲慢だし、無知を正当化すると差別を増長させることにもなりかねない。そのため、はてこ氏に対する批判の多くは「言っていることは正しいが」と前置きをしていることが多い。そうすることで意図的にアイヌ問題をスルーして、はてこ氏がユーザーを吊るし上げる行為の是非について論じている。
たしかに知識がないことや、差別問題に関心がないことは、それ自体が罪ではない。「アイヌは殺す」は無罪だと言うつもりはないが、今回の場合には「倒す」の意味で使った「殺す」という一つの失言にこだわったために、余計な反発を招いてしまった。

はてこ氏がそこまで悪質なヘイトスピーチだと認識したのであれば、今年の6月からヘイトスピーチ対策法が施行されているので、ブログで晒し上げするのではなく、当局に通報する選択肢もあった。そうしなかったのは、警察が動くほどの話ではないと判断していたのか、あるいはブログに書くことで啓蒙につながることを期待していたのかはわからない。ただ、先に警察に相談するか、せめてTwitterに通報してからブログに書いていれば、エントリーに説得力を持たせることができたと思われる。
(追記:ヘイトスピーチ対策法は「適法に居住する在日外国人とその子孫」と定められているためアイヌに対する発言は対象外になるようです。)
個人的には「アイヌは殺す」という発言を、削除せずに残していた場合には、Twitter運営からアカウントを凍結される可能性があったと思う。ただし失言一回で垢バンとなると、それはそれで言論統制的で厳しすぎるようにも感じられる。
(発言したTwitterユーザーは凍結されていたが、このエントリーを書いているあいだに復活した。)

差別問題は歴史問題でもある

驚くべきことに、はてこ氏の書いた『ナコルルが強すぎてムカつく人たちによるアイヌヘイトスピーチよりも、それを批判するエントリー『「言ってることはわかるがお前のことが気に入らない」を軽視しすぎたらあかんのちゃうかな - あとのまつりのほうがブックマークを集めている。ちなみに、こちらのエントリーのほうが無言ブクマが多く、はてこ氏のエントリーの無言ブクマが40パーセントなのに対して、id:possesion_cdp氏のエントリーの無言ブクマは60パーセントになっている。はてこ氏のエントリーには熱心な活動をしているブックマーカーが多く、possesion_cdp氏はカジュアルなユーザー層が多く支持していると推測される。

こうした反発の背景には、アイヌ問題が歴史問題とも絡み合っている構造がある。簡単に言うと、サヨクが「差別だ」と発言すると、ネトウヨが「差別はなかった」と発言する構図だ。これは朝鮮人の強制連行や慰安婦などでも同様の構図がある。possesion_cdp氏がそうした思想を持っていないとしても、possesion_cdp氏を支持した人の一定数は「差別はなかった」と考えていてもおかしくはない。
はてこ氏には自覚がなかったのかもしれないが、アイヌ問題を政治的にフラットに論じることはおそらくかなり難しいことでもある。いくら関心を持つべきと啓蒙しても、一部の人からは啓蒙するだけで政治的な発言だと見なされてしまう可能性がある。
もちろん、そうしたことのないように、しっかりと教育がなされているのが理想だが、あらゆる差別問題が国民全員に周知されることは不可能なことでもある。アイヌ問題に関しては多くの日本人が知らないし、テレビなどでも取り上げられていない実態がある。北海道民以外の人にとって、今回の発言の深刻さは、あまり実感が持てないのが正直なところではないだろうか。

ちなみにpossesion_cdp氏のエントリーはひどい内容で、その一端として「青二才と同じレベルで生理的なレベルで無理。」「今回のはてこさんの記事は青二才レベルと言いたい。」と書かれていたことがある。この部分は読者に指摘されて消されているが、これは二重の意味で間違っている。
まず、誰かと同レベルだとバカにすることは非常にたちの悪い発言である。もし、うかつに言い返すと、仕掛けられたいじめの輪の中に参加することになってしまう。次に、この内容で青二才氏を出すのは、使い方として間違っている。おそらく残念だという意味合いで青二才氏の名前を使いたかったのだと思われるが、青二才氏は自他共に認めるはてなアイドルで、余人をもって替えがたい人材なので格が違う。

ポリティカル・コレクトネスをどこまで受け入れるべきか

そもそも、相手の態度について言及することは、不毛な議論になりやすい。はてこ氏に対して、もっと丁寧に伝えるべきだと訴えている人がいるが、ネットでは丁寧な言い方よりも直接的な物言いが支持されることも多い。自分に都合の悪い主張に対して、揚げ足取り的に文句を言っているようにも見える。
また、かつてバカッター騒動があったように、Twitterでは検索によってユーザーが吊るしあげられる事例というのは日常茶飯事である。Twitterでは鍵垢ユーザーを除いて「お前に向けて言ってない」という内輪の論理は通用しない。ゲームクラスタ同士の「殺す」や「死ね」は「倒す」の意味だから許されるという理屈は、そうした前提を踏まえると無理がある。

ただし、ゲーマーが表現規制に反発する空気があることについても理解すべきだろう。もともと日本では暴力図書としてゲームを規制する動きがあり、ゲーマーは表現規制には敏感になっているところがある。
また海外ではフェミニストによるバッシングが繰り返されていて、スーパーマリオのように女性が虐待されて男性が活躍するストーリーが多すぎるといった批判がある。しかし、男性ユーザーが多い市場に合わせてストーリーが作られているため、こうした意見には反発の声も多い。
とはいえ、いくら格闘ゲームの文脈であっても、「殺す」という発言は言い換えるべきだろう。ゲームプレイがシェアされるのが当たり前の時代になって、わざわざ一般人に誤解されやすい言葉を使うのは余計な摩擦を生むだけだ。おそらく、そうしたほうが格闘ゲームのみならず、ゲーム業界全体の未来にとっても良い結果をもたらすだろうと思われる。