WHOによる自殺予防ガイドラインと自殺報道について

難しい問題だということはよく理解している。
自殺報道に影響され自殺が増える「ウェルテル効果 - Wikipedia」というのもわかっている。
予想外のアクセスがあったので、指摘される前からWHOの自殺予防ガイドラインについて触れなければと下書きを書いていたが、それもアクセス稼ぎになる可能性があるのでお蔵入りにしようと考えていた。

こんな言い方は無責任かもしれないが、WHOの自殺予防ガイドラインに従うとマスコミの事実報道以外はなにもできなくなる。
しかもネットでは頻発する話題だが、WHOのガイドラインは日本の大手メディアも守っていない。
少し検索しただけでも、このようなニュースがあった。
調べればもっと見つかるだろう。

上原美優さん、自宅で首つり自殺「お母さんのところに行きたい」:芸能特集:スポーツ報知
http://hochi.yomiuri.co.jp/feature/entertainment/topics/news/20110513-OHT1T00032.htm

これは見出しに自殺の方法と遺書と勘違いさせるような言葉を入れ、本名を含めた詳細なプロフィールを載せ、死亡した状況について関係者のコメントも入れて詳しく書き、対策についての情報はなく、家族構成まで掲載して遺族に配慮した様子がない。
私でもこれはひどいというのはわかる。
彼らはWHOのガイドラインを知らないのか。
大手新聞社なのでそんなはずはない。
抗議もあっただろうに、なぜ結果として公開され続けているのだろうか。
おそらくWHOのガイドラインを無視し続けているということだろう。

個人としてはどうすべきなのか。
WHOのガイドラインに従ったうえで、自殺について触れるということは無理難題でもある。
厳密に言えば、どんな自殺すらブログに書くべきではないことになる。
マスコミのような社会的責任があって事実報道するわけではないのだから、知り合いが自殺しようと、好きだったアーティストが自殺しようと、自殺についてはブログに書けないことになる。
一番いいのは、そういうややこしい問題はスルーすることだ。
批判も来るし、アフィリエイト上問題もあるし、自殺のことは書かない触れない関与しない、見つけたらすぐに運営会社に通報。
私はそうは思わないが、そのほうが妥当なのだろう。

今回の件では、最大の問題はツイートが残っていることにある。
なぜ非公開にならないのかといえば、Twitterの内部基準はクリアしているのだろう。
おそらく事件の被害者であれ自殺であれ、死亡したアカウントを凍結するという運用にはなってはいないのだ。
例えばもし政治家が自殺した場合、過去のブログやツイートが勝手に非公開にされると、場合によっては情報操作にもつながる。
それは行き過ぎているし、情報公開の視点から見ると危険なことだ。
しかし、そうすることで今回のような場合には自殺直前までの心理状況や行動が、いつまでも晒され続けることにもなる。
ツイッターには自殺をほのめかすユーザーを通報する機能があることが増田に投稿されていたが、これは警察に通報されてIPアドレスから逆探知されるのではないかという推測がブックマークにあった。
だとすると既に自殺したアカウントに対しては意味が無いことになる。
難しい問題だし、一朝一夕に結論が出る問題ではないのだと思う。

あまり知られていないのだが、ツイッターには「自殺をほのめかしているユーザーを報告」という機能がある。

https://support.twitter.com/forms/general?subtopic=self_harm

ツイッターは「自殺をほのめかしているユーザーを報告」ができる

死者を美化する行為について

死者のネットログは非公開にされるべきなのか、スルーされるべきなのか、公開され続けるべきなのか、時と場合によるのか、誰が判断するのか。
残念なことに今回はTwitterアカウントが生きているので、公開されているかぎり見に行く人はいるだろう。
どうせ話題になるのなら、発掘されるべきはリストカットの写真よりも、ホットエントリーになりそこねた笑えるブログのほうがいい。
私が考えていたのはその程度のことだった。
自殺したネットユーザーのブログを評価することは、死者を美化することに違いない。


まつたけ氏は境界性人格障害(ボーダーライン)の親しくしていた女性が自殺してしまった経験があるという。

死んだメンヘラ神さんにしても、まさか死んだ本当の理由が「別れた元カレに『死ね』って言われたから」ってことはないんじゃないかと思う。もちろん「じゃあこのタイミングで自殺するか」っていうきっかけにはなったんだろうけど、だからってこの元カレが「自殺させた」なんて報道の言い方はなんか違う気がした。

Twitterのメンヘラ神が死んだ件について思ったこと - まつたけのブログ

このエントリーは正直なところ、後半まともに読むのも辛いほどの告白だが、最後に「全部少なくとも自分にとっては必然性のある話だったりする」と書かれている。

まつたけ氏の言うように、今回の事件はおそらくきっかけを与えただけなのだろう。
しかし、いくら衝動的な行動とはいえ、過去のツイートを残しておけばどうなるか、彼女にも想像できたはずだ。
元カレの逮捕はともかく、ネットで話題になること、そして過去のツイートが発掘されることも。

よき倫理を!

最後の挨拶として、あまり見かける言葉ではない。
彼女はどうすべきかわかっていた。
ツイートは削除されるべきだった。
しかしツイートは削除されなかった。

だから、こんな言葉になったのだ。


f:id:chuunenh:20140223031344g:image
自殺予防 メディア関係者のための手引き - 内閣府

こうして書いていることも、WHOの自殺予防ガイドラインによると問題だろう。
正しい行動は、自殺のことは書かない触れない関与しない。
匿名の2ちゃんねる以外では、タブーを気にせずに感想を残すことは倫理的な問題を含んでいる。
難しい問題だということは理解している。
批判の声を受け止めて、できることがあれば対応するつもりだ。


(追記:2014-03-08)
「よき倫理を」は同人誌で使われていた言葉だったらしい。

あと最後に一つ。彼女が最後にツイートした「みなさま、よき倫理を!」は同人誌の扉絵を描いてくれた人の考えた言葉で、扉絵に書かれているものだということを一応。

メンヘラと事件の話 - A Mental Hell’s Angel