アウティング自殺事件をロリコン教師と比べるのは間違っているだろうか

一橋大学アウティング自殺事件が注目されている。今回の事件はアウティングという言葉が広まった象徴的な事件として、多くの人に記憶される事件になるのだろう。
この事件についての続報に注目が集まっているが、はてなブックマークでは2階、3階、4階とメタブタワーの論争が続いていた。興味深いやりとりだったので、その一部を引用したい。

はてなブックマーク - 一橋大・ゲイとばらされ亡くなった学生 遺族が語った「事件」の詳細

nemuiumen nemuiumen 一橋大にとって、同性愛者であることは「ショックなこと」らしい。それ自体見識としてどうよという話ではあるけど、この話のスタートはそういう世界であることが前提となっているので、やるせない。

Louis Louis ロースクールとその学生がこのような見解で逃げ切れると思っているあたりが怖い

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backnet backnet Z君も苦しんでたってその苦しんでた原因はホモフォビアじゃねえか。それ原因のアクションなら許されるっていうんならホモとか気持ち悪いから同性婚反対!とか言ってる人肯定してるのも同じだろ。

hobo_king hobo_king とは言え裁判どうなるんかなこれ。社会問題の代理戦争みたいでややこしいし、被告側の言い分も当然あるよな。心情的な部分は脇においてなるべくフラットな気持ちで続報を待ちたい。

3階からsimplemind氏とgaumash氏の論争が始まる。

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simplemind simplemind イケメンだろうがヘテロだろうが例えば女子生徒が信頼する中年教師から愛の告白されて断ったら「ロリコンがバレたら社会的に死ぬから誰にも言わないで。2人だけの秘密だよ」とか言われたらキモいし重いし無理でしょ

gaumash gaumash 全く違う状況を作って「無理でしょ」っていうの痛いなぁ。

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simplemind simplemind 「全く違う状況を作る」のは当たり前でしょ?「1対1の特別な関係を強制されるのは理不尽。全く違う状況(ヘテロ)だったとしても理不尽さは同じ。なのでホモフォビアは関係ない」という主張(解釈)なのだから

gaumash gaumash その”理不尽さ”って「同じ」?全く違う状況だと自分でも仰ってますが。そもそもこの場合Zくんへの”理不尽さ”って何?

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simplemind simplemind 「僕の恋人になってよ」は断ったのに「僕の秘密を知ってるのは君だけだよ」とか理不尽でしょ。自分の意思と関係なく特別な関係にされちゃってるわけだから。この理不尽さに性別も性嗜好も関係ないってこと

gaumash gaumash ”理不尽さ”があるとして、その根底の「秘密」の原因は、「秘密」にしておかないといけない環境が作られてることが原因なので、性指向が関係ないというのは違います

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simplemind simplemind いや関係ない。なぜなら理不尽さは「本人の了解を得ず強制的に秘密を共有させられた(唯一秘密を知る人間にされた)事」であり、秘密の内容がLGBTや国籍等の被差別的属性と無関係だったとしても全く同じだから

gaumash gaumash 被差別属性でなければ「秘密」には成り得ず、理不尽さも発生しないので関係ありますよ。今回の場合、同性愛が被差別属性でなければ発生しなかったと考えられますから


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simplemind simplemind それは「今回の」秘密は被差別属性でした、ってだけでしょ。差別と無関係な秘密も色々あるでしょ。ところで「今回、同性愛が被差別属性だったので、Zくんに理不尽な状況が発生した」これに異論はないの?

gaumash gaumash 私は理不尽だとは思いません。「誰かが被差別属性である」ということを知ることによる被害はないのですから。あなたの例え話の「教師と生徒」の関係と違って。

このあとは議論が噛み合っていないので省略する。

simplemind氏の言うように「教師と生徒」の関係というのは、ゲイの告白と似ているところがある。もちろん教師の場合には、それが純粋な恋愛感情だったとしても職業倫理に反しているし、生徒が18歳未満であれば淫行として処罰されることになる。そうした点からLGBTの問題とは一緒に論じてほしくない人もいるだろう。
ただ教師と生徒の交際というのは、実際にはかなり多く存在していることと、そこから結婚にまで至るケースもあることから、そのすべてが正しくない行為とは言い切れない。議論の参考にする程度なら問題ないと考える。

そもそもLGBT問題はどれだけ注意しても炎上しやすいテーマである。例えば、過去にゲイから告白された経験のある高学歴フリーター (id:highsoneet)氏が「ゲイはノンケに告白すべきではない」というエントリーを書いて炎上した。このエントリーの反応では告白の賛否について意見が分かれている。

僕はゲイから告白を受けた際、「俺がゲイであることは誰にも言わないでほしい」と頼まれました。

他人の人生を大きく左右する秘密。

職業上の義務でもないのに、秘密を守る義務を一方的に課せられたのが迷惑でした。

ゲイはノンケに告白すべきではない - 高学歴フリーターのブログ

このエントリーには批判の声が多いが、そもそも異性愛者の片思いでも、告白したことが周囲に広まってしまうことはよくあることだ。告白の大半は失敗するし、相手に悪意がなくても噂が広まってしまうことがある。
LGBTが告白する場合には、相手がLGBTではない可能性のほうが高いので、告白の成功率はさらに低くなる。LGBTにも告白の自由はあるとはいえ、成功率の低さを考慮すると、アウティングされるリスクはかなり高い。だから「ゲイはノンケに告白すべきではない」というのは、そこまで差別的な意見だとは思わない。

ただし高学歴フリーター氏のエントリーには突っ込みどころが多すぎて、炎上するのも仕方ないところはある。炎上を受けて書かれたエントリー「【反響と反省】2016-08-08の記事「ゲイはノンケに告白すべきではない」のコメントに寄せて」によると、最初のエントリーでは詳しく説明していなかったが、「思い出すのも苦痛な」「性的な発言」を受けていたことが男性恐怖症の原因だと書かれている。しかし、こうした後出しの言い訳はブロガーとして不誠実だと見なされるし、その詳細を明らかにできない以上、その本心が理解されるのは難しいだろう。高学歴フリーター氏の主張は当事者が悩んだ末に出した結論ではあるものの、エントリーに問題があるのも確かだ。

ロリコン教師のゲイ告白との類似性

「教師と生徒」の関係を、ゲイの告白と比較してみると、この問題が少しだけすっきりする。
まず「教師と生徒」であっても、もしカップルが成立すれば、誰も傷つかないし、交際から結婚まで至ることもある。逆に失敗したら、教師は仕事を失う可能性があるし、少なくとも生徒からの信頼を失うことになる。さらに生徒を混乱させたり動揺させてしまう危険もある。
告白のリスクが大きい点において、ゲイの告白と「教師と生徒」の関係はよく似たところがある。成功すれば最高の状態になるが、失敗したら取り返しの付かない状態になってしまう。
ここで難しいのは、リスクが大きいのは似ているとしても、教師の場合には告白自体が罪になるのに対し、ゲイの場合にはアウティングが罪になることである。もしゲイの教師が生徒に告白してアウティングされた場合には、どちらが悪になるのだろうか。

とはいえ今回の事件では前途有望な若者が亡くなっているので、こうした極端な考え方は受け入れづらいところがある。アウティングはいじめの構図と似ているところがあるため、どうしても自殺の原因を作った側に問題があると感じてしまう。ロースクールの学生なのに人権意識が足りないとか、大学のハラスメント対応が悪いなどと、一方的に悪者を決めつけてしまいがちだ。
もし気軽にカミングアウトできるような差別のない社会になれば、アウティングもなくなるのかもしれないが、そうした理想論はあまり意味がない。LGBT差別はなくなるべきだし、制度上の問題はできるだけ改善されるべきではあるが、告白のように内面上の問題に関しては、完全に解決されることはないのではないかという気がしている。いつの時代にもロリコン教師がいなくならないように、ゲイのアウティングについても解決できない厄介な問題なのではないだろうか。


(追記)
この件について考えていたら、上記に書いた「ゲイの教師が生徒に告白した」場合のように、アウティングが無罪になるパターンが存在することに気がついた。
以下のようなバリエーションがあるとして(過失割合は適当)、アウティングが正当化できる場合がある。

・告白相手がアウティングした場合(過失は告白相手100:ゲイ0)
・告白相手が思い悩んで誰かに相談した場合(過失は告白相手80:ゲイ20)
・告白相手がゲイではないことを表明していた場合(過失は告白相手60:ゲイ40)
・ゲイが繰り返し告白した場合(過失は告白相手40:ゲイ60)
・ゲイが抱きつくなど無理な告白をした場合(過失は告白相手20:ゲイ80)
・ゲイが職場の上司や教師などの場合(過失は告白相手0:ゲイ100)

こうして考えてみると、アウティングというのはLGBT問題だけでなく、恋愛ハラスメントの問題も含んでいる。差別問題だけではなく恋愛問題でもあると考えると、ゲイの告白を疑問視する声があるのも理解できる。
炎上した高学歴フリーター氏の場合には、「思い出すのも苦痛な」「性的な発言」を受けていたので、もしアウティングしていたとしても、その過失割合は100パーセントではないだろう。
アウティングLGBTに対する無理解が引き起こすのではなく、今後さらに大きな問題になるのではないかと感じる。ゲイ差別がなくなることで、アウティング事例は逆に増える可能性もあるのではないだろうか。