ブックマークコイン

20xx年。

ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトを名乗る人物による第2の論文「P2Pブックマークコイン」が発表された。

サトシ・ナカモトが実在するのか、それとも複数人によるチーム名なのかは不明だが、彼らの発明はビットコインで終わりではなかったのだ。

この論文はブックマークコインについて書かれていた。

ビットコインが人と人との通貨のやりとりをするものだとしたら、ブックマークコインは人とウェブサイトを仲介することが目的だった。

ビットコインから派生した技術なので、当然、ビットコインを使って匿名で送金できる。

アフィリエイトのようにバナーを貼る必要はなく、送金リクエストに応えれば入金される。

受け取った金額をソーシャルボタンのように公開することもできるし、非公開にすることもできる。

ただし送金リクエストはオープンなので、どのくらい送金されたのかは第3者にもわかるようになっている。

送金されたブックマークコインを受け取るには、送金リクエストのワンタイム公開パスワードをサイト内に表示する。

この仕組みによって、ニコニコ動画やPixivなどの投稿サイトでもブックマークコインを受け取ることができる。

これだけならブックマークコインがそこまで普及することはなかっただろう。

しかし彼らはあまりにも潤沢な資金を所有していた。

分散して隠し持っていたビットコインが、数兆円規模にまで膨れ上がっていたのだ。

それを惜しげも無くブックマークコインの普及に使い、世界的なキャンペーン「ラブ共有しよう」が実施された。

Facebookのいいねや、投稿サイトのお気に入り数を換金できるようになったようなものだ。

すぐに世界的なムーブメントになり、PV数よりもコインを集めることがサイトの至上命題になった。

SNSや投稿サイトはブックマークコインを拒否することもできたが、ユーザーが爆発的に拡大するので、どのサービスでも受け入れざるを得なかった。

しかも、ブックマークコインとそのキャンペーンによって、彼らの原資であるビットコインの価値はさらに上昇していた。

こうして国家も企業も広告主も口出しできないコンテンツ流通の仕組みが整った。

人気のあるブロガーや動画投稿者は、ブックマークコインによる収入だけで生活できるようになった。

いつしかブロガーやクリエイターは単なるPV稼ぎではなく、人に愛されるコンテンツを生み出すようになった。

広告に毒されていた時代は終わり、クリエイターにとって夢のような時代になった。

ちなみにはてなブックマークは競争相手なので、はてな全体がラブ共有キャンペーンの対象外だった。

だから未来になっても、はてなスターは一銭にもならなかった。

はてなはマネタイズに汚染されていない古き良きサービスとして一部の信者に支えられていたが、ユーザーの高齢化によって廃れた。

そしてインターネットはコイン集めの場所になった。